『フジツボ 魅惑の足まねき』(倉谷うらら著/岩波書店/1500円+税)
 フジツボファンという独特のスタンスで、フジツボのあれこれを紹介した本です。最初に、身近で目にすることが多いという30種あまりが図示されていて、ビーチコーミングでフジツボに接することの多い私にとっては役に立ちました。特に近年増えている帰化種についての情報が有用でした。近縁のエボシガイにふれてあるのも嬉しいことでした。ただ、分類表がどこかに欲しかったところで、図版の各種の所属が、フジツボ科、フジツボ超科、クロフジツボ亜科などレベルがまちまちで分かりにくい難点がありました。表題にある足まねきとは、聞き慣れない言葉ですが、蔓脚類という通り、殻の間から広げた蔓脚を熊手のように使ってプランクトンを集める、その動きを足まねきと呼んだものです。あの部分は触手と呼ぶのものと誤解していたので、手まねきでよいと思ったのですが、やはり足でなくてはいけないようです。内容としては、浮遊生活に始まる生活史、生育環境、研究史特にダーウィンの貢献、本草学での扱い、人とのつながりなど多岐にわたっており、それぞれに新しい研究成果が随所に織り込まれていて興味深く読むことができます。ウミガメにつくカメフジツボは有名ですが、クジラにつくオニフジツボがあることを知りました。近年、注目されていることに、殻を基物につけるセメント物質があり、さまざまな分野での応用が期待されているそうです。また、環境指標生物としての調査にも期待がもてます。全体に、よい意味で趣味的な作りになっていて、図版も多く楽しめる本だと思いました。(2009/11)