『ミュージアム・フリークinアメリカ』(栗原祐司著/雄山閣/2800円+税)
 著者の栗原氏は、現在は文化庁で仕事をされていますが、つい最近まで文科省の博物館担当の責任ある地位におられた方で、私も会議で何度か同席したことがあり、実のところしかつめらしいお役人という印象を持っていました。ところが、この本を読んでびっくりしたことには、本格的な博物館好きで、国内4500館、アメリカ1600館を訪問したことがあるというのですから、これは尋常なことではありません。まさに、ミュージアム・フリーク、それも日本で1、2を争うフリークなのです。本書はおもに、仕事で3年ほど滞在されたというアメリカでの博物館体験を中心に書かれたものですが、チケットから始まり、トイレ、レストラン、グッズといったテーマ展開は、ちょうど鉄ちゃんが鉄道を語っていることを思い出させ、そうした視点で博物館を描いた本は今までなかったと思ったことでした。そうした個人的な楽しみと並ぶもう一つのテーマは、日本人とアメリカの博物館の関わりということで、たとえば、戦前にアメリカで活躍した日本人の何人かを博物館の展示の中から見いだした話とか、戦時中の日系人の強制収容ということについても、当時の施設が保存され、博物館として公開されている場所があるなど、あまり光のあたらない日米交流史が博物館の中に眠っていることが紹介されています。著者がアメリカの博物館を尋ね歩いて印象的だったことの一つは、入口でenjoy! という言葉をよくかけられたことだそうで、そのあたりに日本の博物館との違いを感じておられるようです。博物館の立場から言えば、一過性の利用者であるフリークを主たる対象として考えていくのは難しい面もあるのですが、そうした層にも魅力のある展示室や設備を考えていくことは、おおいに役に立つことでしょう。(2010/4)