『きのこの下には死体が眠る!?』(吹春俊光著/技術評論社/1580円+税)
 千葉県立中央博物館で菌類担当の学芸員を務めている著者によるキノコの生態についての入門書です。類書があるのかどうか、不勉強でよく分からないのですが、非常に興味をひかれる記述が多く、ワクワクしながら読み進めることができました。たとえば、傘を持つ担子菌類の場合、水の表面張力を利用して胞子を射出する仕組みを持っており、傘はその仕組みが雨に濡れないための構造だといいます。胞子を運ぶ仕組みとして、臭い匂いを出してハエを呼ぶとか、雨滴ではじき飛ばすチャダイゴケなどはよく紹介されていますが、もっとも基本的なことを初めて読んだのは意外なことでした。また、菌根についても詳しく紹介されていて認識を新たにしました。代表的な菌根に、菌糸が根の中に入り込む内生菌根と、根の外側に菌糸がカバーを作る外生菌根があるのだそうですが、世界の森林は内生菌根型の菌類と樹木で構成されている林と、外生菌根型の菌類と樹木で構成されている林に大きく二分されるといいます。前者は熱帯地方を中心に発達し、そこでは樹木の種数は多いが菌類の種数は少ない、後者は温帯から寒帯に発達し、そこでは樹木の種数はマツ科・ブナ科・カバノキ科などの少数であるのに対して菌類の種数は膨大だといいます。こうした見方は、非常に興味深いものでした。菌根に関しては、マツタケについてもふれられ、人の働きによって里山の森が貧栄養的になって外生菌根菌の生育に適すようになったために、里山で見られるようになったと書かれています。ただし、この説明は、後でシイカシ林も外生菌根菌の林であるとの紹介が出てくるので、やや言葉足らずのように感じました。他にも、南方系のキノコが温暖化の影響なのか見つかるようになったとか、DNAによる解析で系統分類が大きくかわった例など、最新の研究成果の紹介もあり、多彩な内容になっています。ところで、最後まで気になったのは書名です。最初の章でアンモニア菌という動物の死体があった場所に発生するキノコが扱われていて、その中にも死体から直接キノコが生えることはないと書かれているのですが、ならばなぜこうした思わせぶりなタイトルをつけたのかと思いました。そもそも死体が埋まっているというのは人間社会の話で、小動物ならシデムシが埋めることはあっても、動物の死体は基本的には地表にあって、おもに動物によって分解されていくものでしょう。そうした基本的なことが書かれていない一方で、間違ったイメージを導くようなタイトルはつけるべきではなかったという感想を持ちました。(2009/8)