『地下水の科学』(日本地下水学会・井田徹治著/講談社ブルーバックス/940円+税)
 日本地下水学会に設けられた市民コミュニケーション委員会と、科学ジャーナリストの共同作業で作られた本で、身近だがよくは知られていない地下水というものについて、多方面から紹介がされています。特に強調されているのは、資源としての地下水という点で、地球上で人類が利用できる淡水のほとんどは地下水が占めているそうです。河川水は、地下水に比べて5000分の1くらいの量しかないという点にまず驚かされます。しかし、ここで注意しなければならないのは、河川水は常に流れて速やかに地表面を循環しているのに対し、地下水は平均でも600年、中には数百万年といった非常に長い年月をかけてたまってきたものもあるということです。そうした地下水も農業用水や飲用にどんどんくみ上げて利用されており、その枯渇が大きな問題になっていると言います。地下水は、各地に湧き出している場所があって、名水として親しまれていますが、日本の水はいわゆる軟水でミネラルの含有量が低く、そのために緑茶を入れるのに適したり、日本酒の醸造に適していたりすると言います。つまり、その土地にどんな地下水があるのかが、文化にも影響を与えているということです。このほか、地下水がたまる地質的な理由、地下水の動態を把握するための調査手法、汚染の原因と対策など、多くの情報が手際よく整理されていて、かっこうの入門書になっています。学会とジャーナリストの組み合わせによる刊行という点も新しい試みとして歓迎したいと思いました。(2009/9)